生殖物語を知っていますか?
2022.04.13
リブスクエア不妊症看護認定看護師の上田さとよです。
「生殖物語」という言葉を耳にされたことはありますか? 初めて聞く、という方も知っている、という方もいらっしゃるのではないかと思います。不妊で苦しいときは生殖物語を書き換える作業をしてほしいもですが、この「生殖物語」については、すべての女性に知っていてほしいと思うことなので、どうか最後までおつきあいください。
「生殖物語」とは、その人が抱く将来の家族像で、結婚すること、子供をもつこと、孫を抱くこと、などがすべて含まれます。もう少しわかりやすく説明すると、結婚したら子供を二人くらい産んで、年をとったら孫にかこまれて楽しく暮らす、というものでしょうか? あ、そんなことか! と思われた方も多いのではないでしょうか?
私の場合、中学生時代は、おかあさんになることが自然な思いでした。男の子と女の子を産みたい!男の子は、サッカー選手になってもらって…… 女の子は、一緒に買い物を楽しんでお菓子作りをしたいな、という具体的な生殖物語を持っていました。
この生殖物語は、2~3歳の頃から作られ始めるのです。自分の家族を見て、世の中にはお父さんとお母さんと子供と赤ちゃんがいるらしい、と知ります。そして自分も大きくなったらそんな役割を担ってみたい、と自然に思うのです。
この生殖物語は、小さなこどもから80歳の方まで、誰でも持っています。それは、生きている中で、そのつど変化があり、追加があるものなのです。
私の場合、大きく変化したのは、30代半ばで病気を発症したときでした。自分は絶対に結婚しない(できないと書き換えた)、結婚はしても子どもはいらない(できないと書き換えた)と考えていました。これも生殖物語、となります。病気の発症で、生殖物語を書き換えたのですね。
あなたはどうでしょうか?思い返してみると、どこかで書き換えをしたな……と心当たりがあるのではないでしょうか?
さて、不妊の方がつらく苦しむのは、この生殖物語があるからなのです。いえ、あることで苦しむのではなく、「書き換え」をしないで突き進むと苦しくなるのです。
子供がいる、いない、とでは物語は大きく変わってきます。その作業はとても悲しいものですが、この作業をしないと、先に進めないのです。生殖物語の書き換えは不妊をしっかり悲しみ受け入れることから始まります。そのうえで、新しい生殖物語を書き始めていきます。
大事なことは自分の生殖物語を確認するとともに、パートナーの生殖物語を知ることです。案外、自分の生殖物語について曖昧だったりするものです。その上、パートナーはどんな思いを持っているのかなんて、知らないことが多いのです。
不妊で苦しんでいる方も、苦しむ経験はしたことがない方も、この機会に、ご自分の生殖物語を考えてみませんか?そして、パートナーとお互いに話し、ふたりの生殖物語に書き換えてみても良いかもしれませんね。
生活環境や体験で自然に変化していくことは、自然に自分で考えた生殖物語なので、知らない間に変わっていた、という場合が多く悲しむことも苦しむことも少ないです(場合によっては悲しみが関係します!)。
しかし、自然な書き換えではなく、意識して書き換える作業は、簡単な作業に思えますが、大変なエネルギーが必要ですし悲しいしつらいことです。
私も今だから笑顔で話せますが、病気の発症で結婚どころではない、子どもはあきらめないといけない、となった当時は、生殖物語を強制的に書き換えなければならず、それを受け入れることが難しく苦しみました。でも、それまで自分が見えなかった世界、知らなかった世界を知り、考え方も変わり、生殖物語も書き換えることができました。小さな頃から積み重なってできている生殖物語です。決して、簡単に数時間で書き換えることは難しく容易ではありませんでした。どれくらいの月日がかかったかはわかりません。ただ、ずっと執着していると苦しいばかりだったので、見えない世界を見て、見なかった世界を知って、少しずつ変化できたのだと思います。
今の私の生殖物語は…… おひとり様の幸せを見つけ、自分が子育てしなくても、子育てしている人を応援する。知っている子どもたちが成長し、相談にきてくれる!もちろん、妊活サポートは続けたい。甥っ子の相談役になる。などです。これもまた、書き換えるときがくるのだろうとは思っています。
今回は、「生殖物語」について記してみました。ひとりひとり異なる生殖物語。それは誰にも責められることなく自由に語ってもいい、世界で一つだけの生殖物語。
かけがえのない物語ですが、もしかしたら「書き換え」をした方が楽になるかもしれません。書き換えたいけれど、難しくて苦しんでいるのなら、いつでもお話にきてくださいね。今日はこのあたりで終わります。最後までおつきあいくださりありがとうございました。